和食に欠かせない魚で高い知名度を誇る「カツオ」。日本中どこでも通じる名前ですが、しかしとある地域では「カツオ」は別の魚を指す名称になってしまうようです。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
カツオは「どこにでもいる魚」?
某国民的アニメの影響もあり、日本でもっとも知名度のある魚といっても過言ではない「カツオ」。身を加工した鰹節は日本食に決して欠かすことのできない食材であり、また「カツオのたたき」や「カツオの角煮」など鮮魚食材としても高い需要を誇る存在です。
首都圏に住んでいると、5月頃から色々なニュースで「初鰹」というワードが取り上げられるため、非常に身近な魚であるように感じます。しかしこのカツオ、日本においてどこででも穫れるものではありません。
初夏~夏にかけて北上してくる初鰹は、黒潮に乗って水温の高い海域を回遊します。そのためメインの漁場は本州以南の太平洋沿岸となり、日本海側の各地や、黒潮が直接流入しない瀬戸内海などの内湾では、カツオが漁獲されることは稀です。もちろんこれらの地域でもカツオは食べられていますが、太平洋沿岸と比べるとポピュラーな存在ではないと言えるでしょう。
瀬戸内のカツオはマナガツオ
さて、そんな「カツオが獲れない」瀬戸内地方ですが、実はそこにも「カツオ」と呼ばれる魚がいます。
当地でカツオと呼ばれるのはマナガツオ科のマナガツオという魚。漢字で書くと「真魚鰹」「真名鰹」となり、いずれも「真の鰹」というような意味があると言われています。
種的にはカツオとは全く関係がなく「カツオが獲れない瀬戸内でカツオの時期に獲れる魚」という程度の命名と考えられています。しかし瀬戸内の人々のこの魚への愛情は深く「鰹なんかいらない、なぜならマナガツオがあるからね!」というような強がりからの命名なのではないかと思うこともあります。
ちなみに「西海にサケなし、東海にマナガツオなし」ということわざがあり、東日本ではこのマナガツオが漁獲されることはほぼ無いようです。相模湾や東京湾にも少量棲息してはいるようですが、流通することはまずありません。
マナガツオは美味
そんなマナガツオですが、似ているのは名前だけで、外見も中身もカツオとはまるで違います。外見は側扁して一見すると「尾びれの生えたマンボウ」のよう、身は白濁した白身で柔らかく、イボダイやメダイによく似ています。
真っ白な身は旨味が強く、脂が乗っていなくても柔らかくとろけるような味わいがあるのですが、旬の時期は身の中にまで脂が差し込んでより一層ジューシーになり、まさに絶品の味わいです。真冬にもっとも脂が乗ると言われますが、初夏までは美味しく食べることができます。
関東では水揚げがないこともあって鮮魚の流通がほとんどなく、知名度も高くありません。輸入された近縁種を用いた「マナガツオの西京焼き」などを時々見かける程度で「漬け用の魚」という程度の印象しかありませんが、西日本、とくに瀬戸内では超のつく高級魚で、刺身用も流通します。東西でここまで知名度や価値観に差がある魚も珍しいように思います。
もし西日本で鮮魚店に入ったときに、見慣れぬ高価な白身を見かけたらぜひ手にとって見てください。値は確かに張りますが、それだけの価値が確かにある味わいだと思います。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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