繁殖期に入ると「婚姻色」という色合いに変わる魚たちがいます。体表を鱗に覆われた魚たちは、果たしてどのようにして体色を変化させているのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
アカオビハナダイの婚姻色
西伊豆のダイビングスポットとして知られる静岡県沼津市井田で「アカオビハナダイ」の繁殖行動が見頃にはいり、話題となっています。
アカオビハナダイは遊泳性の小型ハタの一種で、近縁種にはサクラダイなど美麗な種が多いです。この種も大きくても10cm強の小魚ですが、赤と白のきれいなツートンカラーは錦鯉を思わせ、海の中で強い存在感を放ちます。
そしてこの時期になると、アカオビハナダイのオスは婚姻色に変わり、より鮮やかになります。体側の赤い帯が鮮やかになり、後半身が黄色に変化するのです。この婚姻色が鮮やかなほど、メスへのアピールは強くなると考えられています。(『ゆらめく錦は恋の色 伊豆の海、アカオビハナダイの「婚活」』朝日新聞 2021.9.8)
婚姻色とは
「婚姻色」とは、繁殖期に現れる平常時とは異なった体色や模様のこと。アカオビハナダイのような魚類だけでなく、両生類、爬虫類、鳥類などにも発生が見られます。
オス・メス両方ともが婚姻色に変化する種もありますが、多くの場合はオスだけが婚姻色に変わり、メスにアピールをします。これには、異性の識別や性行動の触発、繁殖可能な個体であることを示すなどの役割があります。
身近な種の中で、とくに婚姻色が顕著な例として知られるのがベニザケ。彼らの普段の体色は普通のサケと変わらない銀色なのですが、繁殖期はまるでペンキで塗ったかのようなきれいな赤になります。これが「ベニザケ」という和名の由来のひとつであるとされています。
魚の婚姻色のメカニズム
しかし、全身を鱗で覆われている魚が、まるで別種のように違う色合いになることは考えてみればとても不思議です。一体どのようなメカニズムで色を変えているのでしょうか。
魚の体色は、多くの場合真皮中に含まれる「色素胞」という赤、黄、黒、白の色味の素を含んだ組織の量や濃度によって決定されます。この色素胞は、自律神経やホルモンの作用によって拡散したり凝縮させることができ、これによって体色を変化させることができるのです。
しかし一方で、魚は実は「青色」の色素は持っていません。その代わりに虹色色素細胞という組織があるのですが、これは光を反射する薄い層を何枚も重ねたような構造になっています。ここに光が当たるとそれぞれの層で反射した光線が互いに干渉しあい、結果として我々の目には青色に見えるそうです。
これらの色素胞や色素細胞による発色要素をうまく組み合わせて、魚たちは婚姻色を発色させているのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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