2020年3月に引退する児島玲子さん。二十年以上、プロアングラーとして第一線で活躍してきた彼女に、『釣り』という仕事に携わってきて感じたこと、気づいたこと。そして、気になるこれからのこと。釣りにまつわる想いを単独インタビューした。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWS 編集部)
児島玲子引退インタビュー
昨年10月、「児島玲子プロアングラー引退」のニュースが業界に流れた。時を同じくして弊社で「みんなの”釣り夢”応援します Challenge Project」が始動し、第1回目の出演者に彼女を起用。昨年末、幼なじみと東京湾でプライベート釣行、横浜にあるレンタルスペースで釣ったアジを児島が捌いて友人にふるまった。
二十年以上釣り業界をけん引してきた彼女に単独インタビュー。釣りを通して感じたこと、学んだこと。これからのこと。あれこれ自身の言葉で語ってもらった。
釣りの仕事で成長したこと
それは、大いにあります。釣りをしていなかったら感じなかったことや、考えなかったことは計り知れなくて。「児島玲子が初の『船上プチ同窓会』開催 〜みんなの『釣り夢』応援します〜」のような釣りでも、地元に住んでいながら、海からの横浜の景色なんて見たこともなかったし。東京湾にこんなに多くの魚がいて、食べて美味しかったりってことも知らなかった。
それと同時に環境のことを考えたり。おそらく釣りをしていなかったら、環境問題ってこれだけテレビで言われてても、あんまりピンときてなかったんじゃないかなと思うんですよね。やっぱり釣りをするようになって、美しい自然を見たり、たくさん魚がいたりするっていうことを知った。そういうものを次の世代に残していかなきゃいけないし、今でいえば、マイクロプラスチックの問題や環境汚染。海水温が高くなって、そこに棲む魚がどんどん変わっているとかっていうのを身近に感じるようになって、より考えるようになりましたね。
仕事として続けられた理由
人生、なかなか思うようにならないことってありますよね。女優や歌手になりたいって思っても演技や歌が下手だったり。能力的にできないっていうこともあったけど、やれる範囲の仕事で、自分はそういう能力より、体力のほうが自信があって(笑)。なので、スポーツ関係とか。そんななか、偶然出会ったのが「釣り」だった。もしかしたら違う職業に就いていたかも。たまたま出会った釣りをこんなに長く続けるとも思っていなかったです。
実際この仕事に入ってみたら、船酔いしない体質であったり、逆にそれまで釣りをやったことがなかったのが新鮮でよかったのかもしれないなって。魚を食べるのもすごく好きだし、旅の要素もあるじゃないですか。釣りをしていなかったら行けなかったであろういろんな地域にも行ったし。日本国内はすべての都道府県に行ってるけど、秘境って言われるような国にも行きました。二十年以上続けてみて、それでも飽きないっていうか、知らないことのほうがまだまだ多すぎて。興味っていう点では、これからも尽きないなって今でも思います。
釣りは他の趣味とは違う?
実は結構多趣味で、ゴルフやスノーボードのほかダイビングもしますけど、釣りってすごく特殊な遊びで、行ってみないとどうなるかわからない。
ゴルフだったら、ある程度自分の実力が分かっているので、まあ平均値からそんなにブレることなく、そこそこ楽しく遊んできて、そこでたまたま天気がよかったねとか、そういう要素があっても、びっくりするようなことってないんですよね。スノーボードもそうですよね。雪が多かったり少なかったり、環境の変化で快適さの違いだったり、ちょっといつもより上手くいったりってことはある。
でも、釣りって毎回まったく違うじゃないですか。行ってみないとわからなくて、すごく釣れるって聞いてたのに全然釣れなかったり。あるいは本命と違う魚が釣れたり。たった1尾の魚なのに、ものすごく苦しんでる人がいたり、喜んでる人がいたり。それが自分の場合もあるし、仲間のときも…。何が起きるかわからないっていうのが、ほかの遊びと比べて特殊。同じ海域に翌日行ってもまた違うんですよね。アジ釣りなんか何百回やってきたかわからないけれど、次の日行ったらまた違うことが起きるのが、面白いなあって思いますね。
つねに心掛けていたこと
遅刻しないことくらいですよ(笑)。あと、朝の挨拶は大きな声で。朝早いので、もう空元気でもいいから大きな声で挨拶して元気にいくと、自分も元気になれるような気がします。
朝のスタートは大事にしていて、遅刻していくと、朝の挨拶が「おはようございます」じゃなく「きょうはすいません」からになるので、そういう一日にしたくなくて。たとえ、どんなに釣れなくても、天気が悪くて途中で早上がりすることになっても、せめてスタートから出遅れたくないっていうのはずっと変わらないですね。
遅刻ゼロ?
ゼロとは言わないですけど(笑)。じつは2回かな、うん(笑)。どうしても起きられなくて。目覚ましはいつも最低3個はセットしてるんですよ。ほとんど1個目で起きるけど、その時は3個の目覚まし全部でも起きられなくて。「もしもし、今どこですか?」っていう電話で起きました。いつも電話なんてこないから。パッと時計見て、やばいやばいやばい…みたいな(笑)。だけど、ギリギリ出船には間に合いました。
2、3分の遅刻でも、自分も相手も気持ちよくないから。初めの頃は釣りも初心者で、誰よりいつも教えてもらう立場。私が一番若いっていうのがあったので、お世話になるのに遅刻するっていう態度で始めちゃうのはやっぱりダメじゃないですか。今もそうですね。むしろ今のほうが、朝なんか早く着いたりしてます。
引退を前にしてどんな気持ちですか?
まだ、辞めるっていうことがピンときてないんですよね。さっき船長に、お疲れ様って花束渡されて”また大げさな”みたいな。それでも1つ1つ連載が最終回を迎えていって。ギリギリになったら気持ちが変化していくかもしれないけれど、いまはあまりピンときてないですね。
あと、どちらかというと、寂しくなるっていう気持ちより、ワクワクしてる部分もあります。それくらい今まで休みがなかったから。逆に休みになったら暇すぎてイライラするんじゃないかっていう不安はあるんですけど、定期的に何かをするっていうことがなかったから。習い事とかもしてみたいなって思います。最近、いろんな物に目が止まるようになりました。4月以降、スケジュール帳が真っ白っていう状態から始めようと思っていて。その生活が始まってみないとわからないですね。
引退を決めたきっかけは?
なんでしょうね。きっかけは・・。世の中、長生きになっていくなか、45になって50が見えた今、このまま50歳とか60歳になっていいのかなって。立ち止まって考えたいなってことですね。20代から今に至るまで、経験を積んだり勉強したりとか変化しつつも、同じ一つの道で繋がって今があるような気がして。このままの道で何かを積み重ねていく10年後ではなくて一度これをリセット。これまでのゆるい坂道(上り坂)を下りて、別の勉強をするとか、違う自分をコントロールするような何か。
それでもし、また釣りの仕事をするにしても、一回は辞めないと自分の思う50代60代っていうのが出来ないんじゃないかなって。積み重ねっていうよりも、別の基礎を築くように、自分の人生を作り変えたいなって。
でも、釣りは続けていくと思うし、もしかしたらまた釣りに関わる仕事をするかもしれない。全然やらないかもしれないけれど、いずれにしても、今の時間の積み重ねではないやり方なんじゃないかなと。このままだとつまらないって思いました。
釣りがつまらなくなった?
その逆。仕事だと行きたい時期に行けない釣りもあったり。4月からはもっと自由に釣りに行けるなって思ってます。釣りをやめる気は全然ないですよ。3カ月先までスケジュールが目いっぱい入っているっていうのが、もう20年以上続いていたので。
例えば、急にある魚がすごい釣れだして、みんながウワァーって盛り上がってる時に行けないとか。釣りには行ってるのに、同じ海にいるのに、「なんであそこであんなに釣れているのに、私はこの釣りしているんだろう」みたいな(笑)。そういう想いもあったから、これからは自由に自分で行きたい釣りにもっと行けるようになると思う。
女性アングラーへメッセージ
いま若い女の子たちがたくさんメディアに出ていて、そろそろ世代交代していってもいいんじゃないかなと思います。私が釣りを始めた頃、本当に女の子がいなくて、いまは女性が釣りをするっていうことがそんなに珍しく見られないんですけど、やっぱり今回の質問でも「女性としてどうですか」っていう質問があるくらい、まだまだ女性は少ない。
男女比が半々になるくらいになればいいって、そこを目指してたというか。それぐらいの気持ちで、もっと女性の人にも知ってもらいたいと思っていたんですけど、その部分については次の若い彼女たちがやってくれることだから。私は、見守る立場にいってもいいのかなって思います。
「女性だから」っていう特別な扱いを受けていることはまだまだ少なくないと思うんですけど、でもどんな扱いをされようが、そこに甘えないで、一人ひとりが『当たり前のことが普通にできる』。そういう意識を持っていけば、いつか「女性だから」ではなく、女性だって別にそこにいたって何も違和感もなく楽しめるようになると思います。女性アングラーの活気は上がってきてるけど、もっともっと次のステップに踏み出して欲しいなと思います。
釣り業界へのメッセージ
例えば釣具が高い問題とか。(笑)まあ、でも趣味のものだからね。カメラとかだって、高くても欲しい人がいていいんじゃないかなとも思うし。
私は全然知らないところから釣りを知って、自分で釣具を揃えて海外に行って釣りをしたりするようになって。世界を見ても、日本は釣りの文化って進んでいるので、もっと多くの人に「釣ったからすごい」とか「大きいからすごい」とかではなく、身近に釣りを感じるような、温かい遊びとして広めてもらえたらなと思います。
私なんかが『プロアングラー』とか言ってるからいけないのかもしれないけど(笑)。でも、わかりやすく言ったらプロアングラー、っていうことにしているだけで、私たちの役割って、けして人よりたくさん釣るとか、すごいでしょ?ってことではなくて。私が目指してたプロっていうのは、子どもにすべての釣りを教えられるくらいのプロっていうこと。釣りをやったことのない人に、「竿をこうやって持つんだよ、アジだったら下のほうにいるよ、シロギスは砂地にいるよ」っていうことを教えられるっていうのが私の思うプロです。
それは何のために、っていったら啓蒙活動だと思っていて。釣り=日本が誇る文化だと思うし、釣りをするということで水辺の生き物を知ったり。日本の景色だけではない、自然をより知ってもらうためにも、釣りはいいツールだと思う。そういう自然のなかで、例えば親子で、自分が生まれた故郷の川や海っていうのが思い出になるような、そういう遊びにしていってもらえたらなと思いますね。
もちろん、その先にはハイテクな道具を使って、大きな船に乗って沖に出たいっていう夢をいつか持つかもしれないけれど、でもやっぱり初めの入り口ってもっと身近で温かな遊びだと思うので、そういうところを大事にしていってもらえたらなと思います。
昔に比べて釣りは変わりましたか?
やっぱり手軽になったっていうのはありますね。釣具がよくなったっていうのが、女性が入ってきやすい環境になったんじゃないかなって。子どもに対しても同じ。圧倒的に軽くなっているし、小さかったりコンパクトだったりするものでも強度が出ていて、片手でもやりとりできるような道具がどんどん増えている。だから、そういうふうに性能がよくなっていくってことは、釣りしている人にとってはありがたいことだと思います。ただ、釣れすぎちゃうかもしれないですね。
今後、世界と同じようなルールは必要だと思いますか?
釣りをしているからこそ、自然を守るという気持ちにいくべきだし、魚を釣りすぎてしまうってことも、国で決めてとかっていうより、親が子どもに教えれば済むことなんですよね。でも、やっぱり今後を考えたら、そういうルールを作ったりっていうのは、海外と同じように必要かもしれませんね。
私も釣りは続けるし、この先10年後も、釣り番組や釣り雑誌や新聞、Web…と楽しみに見ていきたいと思う。だからこそ、よりよい環境づくりだったり、そういうことをみなさん続けていってほしいなと思います。
今までいろいろな国に行ったからこそ思うのは、日本って魚の種類がもの凄く多いんですよ。黒潮が当たってて、親潮もあったり。冷たい潮と温かい潮があって。縦に長いから季節もある。いろんな生息域が交じり合ってるところなので、世界的に見ても特殊な地域だと思うんですよね。こんなに恵まれている環境ってことを釣りしているからこそ感じたし、だからこそ壊しちゃいけないっていうか。みんなにもそれを感じて考えてほしいし、マスコミもしっかり考えて伝えていくべきだと思います。
また釣り業界に帰ってくる可能性は?
あはは(笑)。もし帰ってくるなら、本格的に料理とか勉強したり、そういう何か自分の武器を持って帰ってきたいですね。今のままだと蓄積はあっても、すごい緩い上り坂みたいで。それで歳をとってくると、もう上っているのか下っているのかわからなくなりそうで。いい時期に辞めて、次をやるなら違う路線でやりたいなって思います。
だから一年は仕事しない!絶対しない。その先は、その一年の間に考えようかなって思います。
まだまだ仕事をさせてもらえる環境はあったし、世界中でやってみたい釣りもあるんですけど、でも仕事でやらなくてもいいんじゃないかって。エジプト行ってナイルパーチ釣りたいとか、自分で行こうと思えば行けることだから。
記者からひとこと
児島玲子との最初の出会いは、釣り業界デビュー間もないころ。まだ、釣りガールとか釣りアイドルなんて言葉はなかった。同行取材のとき、カメラのレンズ越しに見せる笑顔に、はっとしたこの感覚はあとにも先にも彼女だけ。心から釣りを楽しんでいるように見えた。さらに、プロとして努力と釣行回数、さらに運も味方につけ、マルチアングラーの頂点へ。奄美でGTを釣るためジムに通ったなんて逸話もあるほど、知識と体力をつけていった。釣り界には、〇〇プロとか〇〇名人と呼ばれる人は多く存在するが、すべてのジャンルに精通するのは、故・西山徹以外、彼女だけだと思っている。残りわずか、体調に気をつけて。そして、お疲れさま。
児島玲子引退単独インタビュー
<佐藤理/TSURINEWS 編集部>
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